医師は近代医療の中心となっている存在であり、高度な専門知識と技術を持つ職業集団です。医療について見ていく際には、この医師に関する様々な制度や役割の検証も欠かすことはできません。医師とは一体いかなる職業なのか、医師をとりまく環境はどうなっているのか、ここで情報を収集していきます。
医師とは何か
医師法
第一章 総則
第一条【医師の職分】 医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。
第二章 免許
第二条【医師の免許】 医師になろうとする者は、医師国家試験に合格し、厚生大臣の免許を受けなければならない。
第四条【相対的欠格事由】 左の各号の一に該当する者には、免許を与えないことがある。
一 精神病者又は麻薬、大麻若しくはあへんの中毒者
二 罰金以上の刑に処せられた者
三 前号に該当する者を除く外、医師に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
第五条【医籍】 厚生省に医籍を備え、医師免許に関する事項を登録する。
第六条【免許の賦与、医師免許証、医師の届出義務】
(1)免許は、医籍に登録することによつて、これをなす。
(2)厚生大臣は、免許を与えたときは、医師免許証を交付する。
(3)医師は、省令で定める二年ごとの年の十二月三十一日現在における氏名、住所(医業に従事する者については、更にその場所)その他省令で定める事項を、当該年の翌年一月十五日までに、その住所地の都道府県知事を経由して厚生大臣に届け出なければならない。
制度としての医師(法制度・医局講座制・日本医師会)
近 代西洋医療は医師、看護婦、薬剤師等の多種の職業集団によって担当されますが、その中で医師の果たす役割は他の職種に対して特異であると言えます。まず、 診断、処方、手術などの医療において中心的な業務を行使する権限が医師に集中しています。また、日本の医師法でも「医師でなければ、医業をなしてはならない」とされ、医師による医療独占が宣言されています。医療の中心的な業務を医師が合法的に独占し、協同して医療に従事する者(コメディカル・スタッフ)は 医師のコントロールの下におかれています。さらに、医療法においても、病院・診療所の管理者は医師でなければならないと定められており、施設の面からも医 師を中心とした法体系となっています。救急救命士の救命行為や、助産婦による助産所の管理など、ごく一部の例外をのぞき、医師はほとんどの医療体制の中心に位置づけられています。
医師は大まかに言って、大学病院を極とするセクターと、診療所開業医を極とするセクターの2つに分けられます。そのうち、大学病院の中心になっている制度が「医局講座制」です。臨床を担当する大学病院の診療科の単位集団である「医局」と、研究・教育を担当する大学医学部の基礎単位である「講座」の合体したもので、通常は一 診療科一医局であり、一名の教授を頂点としたヒエラルキーになっています。教授の下には助教授、講師、助手といった常勤スタッフが続き、さらにその下に、 大学側では大学院生・研究生が、病院側には医長・非常勤医員・研修医が続いています。一般的には、医学生は大学を卒業後すぐに何れかの医局に入局し、研修医としての活動を開始することによってヒエラルキー・システムが更新されます。
この医局講座制を支えているのが、学位授与権と人事権という二つの権限です。学位授与権は、「医学博士」の称号を与える権限であり、現在は実質的に教授によって授与権が独占されています。この医学博士の称号 は、現代でも大学の教員ポストの取得や国公立病院の部長クラス就任に当たっての実質的な資格要件とされることが多く、医学部卒業生は医局の教授のヒエラルキーに従うことになります。一方、人事権は、社会の医療に対する需要の拡大と共に肥大化してきた権限で、大学医局による系列病院への医師派遣、大学医局に よる病院内のポスト掌握などの面で影響します。医師は職場確保のためにいずれかの医局に所属せざるをえず、病院長や事務長よりも実質的な人事権を握っている医局の教授に従わざるをえなくなります。