Personal tools

Views

議論の構造

written by 齊藤 貴義 on

Difficult meeting議論の構造を分析しよう

相手の理性に訴えかけて自己の主張を述べようとするとき、私達は自分の主張を裏付ける理論や事実を示さなければなりません。根拠がなければ、議論はただの言い争いになり、説得力を失ってしまうためです。これは何も難しいことではなくて、たとえば幼児でも、「この前、日曜日につれていくって約束していたから」、「遊園地に行こうよ」、という具合に、もっともらしい理由をあげることを体験を通じて学んでい ます。このように、議論は、一般に主張(結論)と、それを正当化するための根拠(前提)によって構成されています。この根拠は、一つ、または一組の証拠となるべき事柄によって構成されています(右画像Creative Commons License photo credit: Simon Blackley)。

具体例

「近年の韓国は日本の文化を積極的に開放している」から、「今後、韓国では日本文化に対する理解と交流が深まっていくだろう」と結論する。

「インドネシア、チェチェン、コソボなど、冷戦時代には想定していなかった地域紛争が世界中で発生している。さらに、これらの問題を包括的に対処しうる国際秩序が形成されていない」から、「冷戦後の世界にとって、この地域紛争の解決が重要な問題となる」と結論する。

議論道場では、結論を導き出すための直接の証拠をデータ(Data 以下Dと表記する)、データから導き出された結論を主張(Claim  以下Cと表記する)と命名します。データは、議論をする相手にとって納得しうる内容のものでなければなりません。自分にしか納得できないデータをいくら並べたところで、相手の理性に訴えかけることは不可能であるためです。「我が党の機関誌には、こう書いてあるんだ」と述べても、「私の信じる宗教では、こ の認識に立っている」と述べても、そこから示されているデータに普遍性が存在しなければ、同じ党員や同じ宗教の人しか説得できなくなります。

また、厳密に考えた場合、主張はデータと同義語またはそれに等しいものでないかぎり、推論上の飛躍(inferential leap)が存在します。そこを突いて、「韓国が日本の文化を開放しているからといって、日本文化への理解や交流が深まるとは言えないのではないか」という有効な反論を提示することも可能です。このような反論に答えるためには、主張者は、データからその主張がなぜ導き出せることの合理性を立証しなければなりません。先の例について言うならば、「なぜなら、文化の輸入がその国への理解や交流の原動力になるから」ということを論証しないかぎり、主張は正当性を欠いたものになります。

このように、「データからなぜその主張に達することができるのかを立証したもの」を、ここでは理由づけ(Warrant 以下Wと表記する)と呼ぶことにします。理由づけは、明言されない場合があります。しかし、この理由づけがいかなる構造になっているかは、意見を分析して有意義な議論を展開する際の大きなカギとなります。

さて、今まで見てきたなかで、議論が大きく三つの部分によって構成されていることが明らかになったと思います。すなわち、「データ」「理由づけ」「主張」です。D→Cへと続く過程に、Wが入ることによって、議論はより論理的になります。


次に、この三要素を基礎としながら、もう少し議論の構造を詳しく見ていきましょう。議論はD→W→Cへと至るプロセスによって構成されますが、このうち、理由づけWが、データDから主張Cへの移行を百パーセント保証するものを、必然的議論(necessary argument)と呼ぶことにします。それに対して、理由づけWが、データDから主張Cへの推論上の飛躍をかなりの程度に保証することはできても、百パーセント保証することはできない議論を、蓋然的議論(probable argument)と呼ぶことにします。社会問題のような複雑な問題を対象として行われる議論は、どうしても蓋然的議論が多くなります。

蓋然的議論においては、百パーセント真実ではなくても、蓋然的なものもデータとして使うことができます。つまり、蓋然的議論は、真実もしくは蓋然的なデータに基づき、完全とは言えない理由づけによって、主張の蓋然性(もっともらしさ)を正当化しようとする議論であると言えます。

蓋然的議論を展開するためには、D→W→Cのプロセスがどの程度確実か、明示される必要があります。その明示の程度を示す要素を、ここでは限定語(Qualifiew  以下Qと表記する)と呼ぶことにします。このQの程度が、「・・・になる可能性もないとはいえない」くらいであれば、議論の分野や目的にもよりますが、 説得力のある議論を展開することはできません。「・・・になる可能性が非常に高い」ということを立証していくことが、議論を展開していく際に不可欠であります。

さらに、蓋然的議論において、理由づけWは、いかなる状況においても当てはまるとは限りません。理由づけWは、あくまでも一般的正当性しか有さず、例外が存在する場合があるためです。このような場合、誤解や議論が本旨から外れることを防ぐために、例外的なケースをあらかじめ想定し、議論の留保条件として明示しておくことが望ましいと言えます。このような留保条件を、ここでは反証もしくは留保(Rebuttal or Reservation 以下Rと表記する)と呼ぶことにします。

また、理由づけWは、真実である場合もあれば、蓋然的である場合もあります。時には、理由づけWの信憑性を裏付けるために、さらに資料が必要になる場合があります。このような場合、理由づけの裏付け(Backing for Warrant 以下Bと表記する)が必要となってきます。

最後に、議論をこのような構成要素に分類したトゥールミンという人が、例としてあげている議論の一つを紹介します。

(D)ハリーはバミューダーで生まれた
↓−−(W)なぜなら、バミューダーで生まれた者は英国人になるから−−(B)「英国領で生まれた者の国籍に関する法律」によって、そのように定められているから
(Q)たぶん
(C)彼は英国人であろう−(R)彼の両親が共に外国人であったり、彼自身がアメリカに帰化したのでないかぎり

以下は、この形式を使った一例です

(D)中国経済は急速に発展している
↓−−(W)なぜなら、国際社会において経済力のある国は発言力を強めているから−−(B)アメリカや日本、EUなどのように、経済発展を遂げた国は、他の発展途上国と比較して、国際社会で大きな発言力を有しているから
(Q)かなりの確率で
(C)国際社会での中国の発言力は強まるだろう−(R)中国の経済が早期に低迷したり、政治の混乱が拡大しないかぎり

タグ: 弁論, 議論


コメントをどうぞ

XHTML: You can use these tags: