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議論の種類

written by 齊藤 貴義 on

今まで、議論とは何か、議論がどういう構造になっているかを見てきました。このページではさらに、議論をいくつかのタイプに分類し、それぞれの基本構造、使用上の留意点、実例などを紹介していこうと思います。

1.「一般化」(Generalization)による議論

▼基本構造

一般化による議論においては、データは通常、多くのサンプルによって構成されます。そして、そのデータDから、許容しうる一般化ができることを、理由づけWは示さなければなりません。

▼使用上の留意点

(1)個々のサンプルについての情報が正確であり、聞き手の承認を得ていること。
(2)個々のサンプルについての情報が議論の目的にとって適切なものであること。たとえば最新の問題について議論する際に、百年前の情報をもってきても(内容にもよるが)不適切な場合が多い。
(3)充分な数のサンプルが考慮されていること。
(4)サンプルの選択が恣意的、一面的ではないこと。
(5)否定的サンプルが、その質と量において、主張Cの一般的信憑性を無効にするほど優勢ではないこと。

▼実例

(D)西欧諸国では国民所得の向上に伴って家庭での牛肉の消費量が増大した。アメリカでも国民所得の向上に伴い、牛肉の消費量が増大した。日本も高度経済成長以降、牛肉の消費量が飛躍的に増大した。中国も現在、急速な経済発展の途上にあるが、牛肉の消費量は年々増大している。
↓−−(W)なぜなら、経済発展を遂げた国々がほとんどそうであるならば、このことは世界中どの国においても、一般にそうであろうから。
(Q)おそらく
(C)経済発展を遂げた国においては牛肉の消費量が増大する−−(R)牛肉を食べることについてタブーとする倫理観のある国でないかぎり

2.「類似」(Literal Analogy, or Resemblance)による議論

▼基本構造

類似による議論では、あるデータから、それと同一のカテゴリに属する他のケースに関する主張が導き出される。データDから主張Cへの推論上の飛躍は、データにおけるケースと、主張におけるケースとが、本質的諸点において類似していることによって正当化される。

▼使用上の留意点

(1)データにおけるケースと、主張におけるケースとが、同一のカテゴリに属すること。二つのケースが異なるカテゴリに属するものは、「比喩」による議論となってしまう。
(2)データの内容が正確であり、聞き手の承認を得ていること。
(3)データにおけるケースと、主張におけるケースとが、重要な諸点について類似していること。
(4)二つのケースの間の差異が、主張の正当性を無効にするほど決定的でないこと。

3.「比較」(Comparison)による議論

▼基本構造

比較による議論は、何かが起きる可能性が低いところで起きたならば、高いところではなおさら起きるといったような比較によって、推論上の飛躍が正当化される議論である。

▼使用上の留意点

(1)比較される二つのケースが同一のカテゴリに属する事柄であること。
(2)データの内容が正確であり、聞き手の承認を得ていること。
(3)程度の比較が正当であり、聞き手の承認を得ていること。

4.「分類」(Classification)による議論

▼基本構造

分類による議論は、あるカテゴリについて一般に認められた事柄や、先立つ議論によってその正当性が立証された事柄から、そのカテゴリに属する個別的ケースの主張を導き出そうとする議論である。

▼使用上の留意点

(1)データの信憑性が、聞き手を含めて一般に承認されていること。
(2)主張におけるケースが、データで一般的情報が述べられているカテゴリに属するものであること。
(3)主張におけるケースが、そのケースに属するカテゴリの中で例外的ケースではないこと。

5.「徴候」ないし「シルシ」(Sign)からの議論

▼基本構造

複数の事実から、それらの事柄が何かの徴候になっていることを主張する議論です。データが主張で述べられていることのシルシになっていることを証明することによって、この議論は成立します。

▼使用上の留意点

(1)データを構成する個々の事柄が事実であり、聞き手の承認を得ている。
(2)データを構成する個々の事柄が当面の目的にとって適切であること。より具体的には、それぞれの事柄が徴候であることを示していること。
(3)できるだけ多くの徴候が考慮されていること。
(4)否定的徴候が、その質と量において、主張の一般的効力を無効にするほど優勢ではないこと。

6.「因果関係」の議論(Causal Argument)

▼基本構造

「このようなデータが存在する以上、その当然の結果としてこの事柄が発生する」という構造によって、主張の確かさが立証される議論。データと主張との推論上の飛躍は、両者が原因−結果の因果関係にあるということによって正当化される。

▼使用上の留意点

(1)データの内容が事実であり、聞き手の承認を得ていること。
(2)データの内容が当面の目的にとって適切であること。具体的には、データが主張で述べられていることの「原因」であること。
(3)原因−結果の関係を断ち切るようなファクターの存在が予想されるときには、それらが充分考慮されていること。

7.「ルール」(Rule)に基づく議論

▼基本構造

データから主張への推論上の飛躍が、法、規則、慣習などといった、社会制度の中で制度化されたルールによって正当化される議論。

▼使用上の留意点

(1)データの内容が正当であり、聞き手の承認を得ていること。
(2)問題のルールの実在および内容が、聞き手にとって充分理解されていること。

8.「理念」(Idea)ないし「信念」(Belief)に基づく議論

▼基本構造

理念や信念によってデータから主張への推論上の飛躍が正当化される議論。法として社会システムの中で制度化されている理念もあれば、法制度はないが広く一般に承認されている通説、少数者によってのみ支持されている理念などもあり、多義的である。

▼使用上の留意点

(1)データの内容が適切であり、聞き手の承認を得ている。
(2)理由づけを構成する理念や信念の正当性が一般に広く承認されているか、もしくは、それに先立つ議論によってその正当性が充分に立証され、聞き手によって正当であると承認されていること。

9.「定義」(Definition)による議論

▼基本構造

言語によるコミュニケーションが成立し、それが一定の成果をあげるためには、そこで用いられる用語についての共通の了解が不可欠となる。その了解を定式化したものが定義であり、定義を理由にして主張の正当性を立証しようとしたものが、定義による議論である。ただし、この定義による議論は、特に社会生活などに関わる用語において、理念やルールによる議論とオーバーラップすることも多い。

▼使用上の留意点

(1)データの内容が適切であり、聞き手の承認を得ている。
(2)理由づけを構成する定義の正当性が一般に広く認知されているか、もしくは、それに先立つ議論によって充分立証され、聞き手の承認を得ていること。

10.「証言」(Testimony)に基づく議論

▼基本構造

様々な種類、様々な内容の証言をデータとし、それによって主張を正当化しようとする議論が、証言に基づく議論である。この議論では、データから主張への推論上の飛躍が、当の証言がその議論の文脈においてもつ信憑性によって正当化される。

▼使用上の留意点

証言に基づく議論が説得力をもつための条件は、その証言がいかなる種類に属するものかによって異なる。ここでは、個別の種類ごとに留意点を整理しておこう。

専門家の意見や判断がデータとして用いられる場合
(1)その人物や機関がその問題についての権威であること。
(2)その人物や機関がバイアスからできるかぎり解放されていること。その問題について直接的な利害関係や情緒的なコミットメントをもつ人物や機関の証言は、割り引いて考える必要がある。
(3)その人物や機関が、その問題に関する第一次資料を充分検討したうえで結論を出していること。
(4)その意見や判断に内的不整合が見られないこと。
(5)その人物や機関が、その証言と両立しえないような証言を他の機会で述べていないこと。
(6)その証言と両立しえない証言が他の専門家によってなされている時には、その証言よりも信用のおけるものであること。
(7)その証言が多くの他の専門家によって支持を受けていること。ただし、これは絶対条件ではない。
(8)その人物や機関の証言が適切に引用されていること。

統計資料がデータとして用いられる場合
(1)専門的調査機関によって作成された統計資料であること
(2)統計学上のルールや手続きを満たした統計資料であること。
(3)正確に引用されていること。

目撃者(体験者)による証言がデータとして用いられる場合
(1)事件当時、目撃者が、正確で客観的な観察の妨げとなりうるような肉体的、精神的欠陥をもっていなかったこと。欠陥があった場合には、その欠陥にも関わらず目撃者の証言が信用に値することが立証されていること。
(2)観察が不都合な条件下でなされていないこと(観察距離や明るさなど)
(3)証言者が、バイアスによって歪められない客観的な観察をなしうる立場の人間であること。
(4)証言内容に内的不整合がないこと。
(5)他に異なった、両立しえない証言があるときは、それより信用のおけるものであることが立証されていること。
(6)故意に誇張された証言や、虚偽の証言ではないこと。
(7)証言が正確かつ適切に引用されていること。

11.「比喩」(Figurative Analogy)による議論

▼基本構造

比喩による議論は、それ自体としては主張の確かさを立証することができないが、主張の確かさ、もっともらしさを印象づけるうえで大きな効果を発揮する。この議論は、一般に広く知られている事柄から、それとは別なカテゴリに属することについての主張を導き出そうとする。データには、たとえ話、伝説、伝承、歴史的エピソード、ことわざ、古典(聖書や文学作品など)の一節など、様々なものが用いられる。この種の議論では、データと主張のケースが、ある種の共通点(比喩的類似)が存在することによって正当化されるが、推論上の飛躍は、今まで見てきた議論ほどは正当化されない。

▼使用上の留意点

(1)データを構成する事柄が、一般に広く知られたものであるか、聞き手が即座に理解し受け入れることのできるものであること。
(2)データにおけるケースと主張におけるケースとの間の共通点が、聞き手によって容易に理解されうるような明快なものであること。

タグ: 弁論, 議論


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