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専業主婦とは何か

written by 齊藤 貴義 on

専業主婦は近代社会の産物であると言われています。農業が中心だった前近代社会では人々は男女を問わず生産労働に従事していたためです。専業主婦はなぜ近代になって出現し、いかなる機能を果たしてきたのか。また、現在の専業主婦を巡る危機とは何なのか。情報を集めていきます。

専業主婦とは何か

専業主婦とは何でしょうか。専業主婦は職業ではありません。家事や育児は共働きの夫婦やシングルマザーも行っていますし、近年では家事や育児を行う企業やそこで働く人々も存在します。そして、そのような家事産業に頼って、家事や育児をほとんどしない専業主婦もいます。家族社会学者の山田昌弘は、専業主婦を「自分の生活水準が夫の収入に連動する存在」と定義しています。専業主婦はそれ自体に自立的な収入を持たないため(したがって年収100万円程度のパートをしている主婦も専業主婦に含まれます)、その生活水準が夫の収入に大きく左右されます。

このように夫の収入に連動した(依存した)「専業主婦という立場」が成立したのは、実はごく最近になってからのことです。近代化が進む前の社会では、多くの人々が農業や製造業に従事していたため、妻も貴重な労働力として生産活動に従事していました。近代化によって、産業の巨大化・集約化が進むにつれ、企業で長時間勤務する労働者が必要となりました。ここに、専業主婦が誕生する社会的適合性があったわけです。専業主婦の成立によって、夫は家庭の雑事を主婦に任せて働くことができ、主婦が子供の世話と教育投資を行うことによって知識や技能を持った新たな労働者が生み出されました。

このようなシステムは、社会が継続的に成長していくこと、つまり労働者が妻子を養える給料が安定的に給付されることによって支えられていました。妻にとっても、生産活動に従事しないですむ専業主婦は魅力的にうつったわけです。そして、「夫は仕事の中で、妻は家庭の中で、一生懸命努力すれば豊かな生活が築けるという夢が出現しました。企業は終身雇用制・年功序列賃金制で労働者を保護し、経済は成長を続けたため、夢は現実のものとして受け止められました。家庭によって夫の年収に違いはあっても、夢が現実であるように感じさせる要因が長期間持続したため、専業主婦は存続し続けられたわけです。

しかし、この状況も今や大きく変わりました。経済の長期低迷、終身雇用制・年功序列賃金制の崩壊、収入格差の拡大、リストラに伴う失業率の増大などによって、夫の収入も職も継続して維持・拡大し続けられるものとは限らなくなり、社会の不確実性が高まりました。このことが今、専業主婦に深刻な危機をもたらしています。

1つは、夢によって覆い隠されてきた「夫の年収から来る専業主婦間の格差」が「目に見える現実」となってきたということです。夫の年収が高い専業主婦ならば、カルチャーセンターに通ったり、スポーツクラブでテニスをしたり、ボランティア活動をしたり、高価な服で着飾ったり広い家に住んだりもできます。「お受験」に際しても、子供に対して多額の教育投資を継続できるでしょう。一方、夫の年収が低い専業主婦の場合、自分がどんなに努力しても、なかなか年収の高い専業主婦のような生活水準を維持することは困難です。

家事労働のページで、妻がどれくらい家事に努力するかが評価基準となる(家事の苦労は愛情作用と連動している)ことを書きましたが、それ以外にも、PTAや井戸端会議などでは、それぞれの主婦がどのような生活をし、何を着て、夫がどのような仕事をし、子供がどのような教育環境にあるかが話題の中心となります。専業主婦の「自尊心」は、ここでどれくらい自分が「他と同じ環境にあること」を確認できるかにかかっています。安定成長の時代ならば、多少それぞれの家庭間の格差が存在しても、「いずれは夫の収入も伸びて、あの家庭と同じような生活を送れるようになる」という夢を抱き続けることができました。しかし、その夢が必ずしも保証されるものではなくなってきました。したがって専業主婦の「自尊心」のジレンマは解消されることなく現状への大きな不満となります。

また、夫の失業可能性の増大は、専業主婦の生活の直接的危機ともなります。夫が失業したら主婦も働く必要がでてきますが、スキルのない主婦には給与の安いパート労働以外なかなか働き口がありません。パート労働の収入程度では、家族の生活を支えていくことも、子供の教育費を払っていくことも容易ではありません。つまり、現在の社会状況において「専業主婦」であることは、極めてリスクの高い選択になりつつあるわけです。

このように専業主婦は、心理的にも経済的にもその存立基盤を失おうとしています。すでにアメリカでは、1955年に77%であった専業主婦率が、1999年には22%まで低下しています。まだ日本では、基礎年金制度や所得税の配偶者特別控除など様々な社会制度によって専業主婦を支える構造があり、パラサイト・シングル(親に自分の生活を依存した独身者)の女性で専業主婦志向が高いため、専業主婦へのあこがれイメージが残存しています。ですが、制度面のバックアップがあっても夫の失業や収入減少のリスクは補えるものではありませんし、パラサイト・シングルや取り柄のない女性を結婚対象として考えない男性も増加しています(その反対に収入の低い男性を結婚対象として考えない女性も増加しています)。専業主婦というシステムは曲がり角に差し掛かりつつあるといえます。

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